商品市場/外国為替レポートバックナンバー

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「市場価格と価格交渉」

「FOMCを控えて高安まちまち」

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1.商品市況概況
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◆昨日の商品市場(全体)の総括
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「FOMCを控えて高安まちまち」

昨日の商品価格は高安まちまち。FOMCを控えて様子見気分が強い中、
前日と同様、その農産品・畜産品が物色され、売られすぎからの買
戻しでエネルギーも上昇した。


注目のFOMCはほぼ予想通り25bpの利上げが行われた。そして来年以
降の利上げ見通しが引き下げられ、2019年の利上げは3回から2回に
引き下げられた。


株価が下落する中での利上げであり、足元の株急落に配慮せざるを
得なかったこと、その一方でトランプ大統領の要求をはねつけ、中
銀の独立性を維持した、という意味でFOMCとパウエル議長は上手く
やった、と思うのだが市場は利上げ継続を受けてネガティブに反応
している。

しかし、長期金利の低下が既に始まっており、総じてインフレ系資
産に対しては今回のFOMCの決定は価格を下支えする要因になると考
えている。

来年の最大のリスクの1つとして挙げていたBrexitであるが、この
ままだと英国内のコンセンサスが得られず、無秩序な離脱となる可
能性が極めて高くなっていたが、ここにきてEU側が英国に譲歩、金
融商品の英国での決済継続などの一時的な緩和措置の検討を始めて
いる、と報じられている。

また、Bloombergは投資銀行がスワップ取引をフランクフルトに移
管するテストを始めた、と伝えている。本件に関して目立った動き
は出ていなかったが、事前のポジション移管が進む可能性はあり、
市場に安心感をもたらすことになるだろう。
https://bloom.bg/2R7yVNP

ただ、なし崩し的に英国に対する対応が緩和していく、ということ
はその他の国が離脱をしようとする動きを加速させるリスクを高め
ることになる。EUも非常に難しい選択を迫られているといえる。


本日も引き続き、上記のBrexitの動向や中国中央経済工作会議の動
向、米中貿易交渉の行方に注目があつまるが、年末ということもあ
って方向感に欠ける転嫁が継続すると考える。

予定されている経済統計では、米フィラデルフィア連銀指数(市場
予想15.0、前月12.9)に注目しているが、市場予想はやや改善を見
込んでいるため景気循環系商品価格を押し上げるとみる。

ただ、足元の米サプライズ指数(統計と実測値の差を指数化したも
の。マイナスだと予想よりも実測値が悪くなる傾向が強まる)はマ
イナスであり、予想外に価格の下落要因になる可能性はあるが、逆
に米利上げ観測を後退させるため、下がったとしても影響は限定さ
れるとみている。


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◆昨日の商品市場(個別)の総括
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---≪エネルギー≫---

昨日の原油価格は上昇した。特段目立った材料がない中で米国時間
に入ってから水準を切り上げる動きとなった。米石油統計の解釈の
仕方はいろいろあるが、単純に売られすぎに伴う買戻しが入ったと
考えるのが適切だろう。

OPECの減産が不十分であるから下落しているという意見は多く、追
加減産の論陣を張るアナリストも多いが、景気が減速する局面では
OPECが減産をしても価格を維持できないことが多いため、足元の下
落は景気への懸念が強いためと整理するべきだろう。

ただし、まだ景気が後退局面入りしたわけではなく、市場参加者が
少ない中で相場が上下に振れやすい環境にある中での下落、と整理
したほうが良く、FOMCでの利上げ打ち止め観測も強まっていること
から底堅い推移になると考える。

なお、米中貿易戦争がどのように決着するか、現時点で誰も見通す
ことはできないが、恐らく米国は「中国が西側の仕組みに組み入れ
られることを承諾します」というまで継続すると予想する。

しかし、中国はアフリカなどの今後成長が見込める新興国を囲い込
み、毛沢東が中国を農村から掌握していった戦略と同様の戦略を推
し進め、数の力で米国の思惑を挫く戦略を採用するとみられ、いず
れも時間との戦いになる。

そして、それほど短期決戦にはならないと考えられるため、比較的
長い間景気にマイナスに作用することになるため、原油を始めとす
る景気循環系商品価格の下押し要因となるだろう。

短期的には投機筋動向が価格に影響を与えやすいが、12月11日付の
WTIの投機筋ポジションは、ロングが前週比▲708枚の503,584枚、
ショートが+19,932枚の195,078枚、Brentは12月11日付でロングが+
7,731枚の261,433枚、ショートは+4,600枚の121,836枚となってい
る。

WTIはロングの減少が減速したものの、ショートの積み上がりが顕
著である。Brentはロングが増加したが、やはり同様にショートが
増加している。

今年の後半にかけては、投機のショートポジション動向の影響が小
さくないが、ショートが新規で積み上がっているということは、供
給懸念発生時の買戻し速度が速くなることを示唆している。景気に
焦点が当たり、下落リスクを強く意識する展開となっているが、む
しろ投機的な観点ではアップサイドを意識したい。

中長期的には中国の人口ボーナス期が2030年頃まで続く事、2020年
頃からはインドも人口ボーナス期に入り需要の増加が見込まれるこ
とから構造的に需要増加が見込めるため強気である。

なお、EVが普及して原油需要は2035年〜2040年頃にピークを迎える
との見方が市場のコンセンサスとなりつつあるが、財政的なサポー
トが必要なEVは、市場の期待するようなペースで拡大するとは見て
いない。

また、EV化が進むにつれて同時に発生する、軽量化目的の樹脂利用
(化学製品向け需要の増加)も期待できること、液体燃料は保存や
輸送の観点からみて依然割安であり、アフリカなどの新興国では引
き続き利用されると予想されることから、2035年に「需要の伸びは
鈍化」するものの、減少に転じると判断するのは早計と見る。。

実際に減少に転じるのは世界的に人口伸びの鈍化が実感される頃
(2050年頃か)になるのではないか。

この見通しの上昇リスクを現物の需要・供給に分けてみてみると、
需要面は原発事故などの突発事象で他のエネルギーを原油で代替せ
ざるを得なくなった時がこれに当たるが、これはなかなか想定し難
い。

供給面は、以下のようなものが上昇リスクと考えられる。

1.中東情勢の悪化

2.PDVSA(ベネズエラ)の生産減少

3.上流部門投資低迷の影響

この中で顕在化の可能性が高まっているのが1.で、2.については
顕在化している(もはやメインシナリオ)。

1.中東情勢はより混迷を極めている。年初は、「米国+イスラエル
+サウジ」vs「イラン+ロシア」という構図だったが、米国の大使館
移転や、サウジアラビア ムハンマド皇太子のジャーナリスト殺害
疑惑などで、米国・サウジアラビアの関係がギクシャクしてきてい
る。

OPECもカタールが脱退、反サウジアラビアの姿勢を強め、イランも
OPECの継続についてやや懐疑的な見方を示すなど、「景気後退局
面・需要減速局面での産油国のエゴ」がむき出しになりつつある。

通常であれば増産攻勢が強まり、価格の下落要因となりそうだが、
軍事的な衝突やサウジ対する制裁やそれに対する報復としての原油
輸出停止も、ムハンマド皇太子が今のポジションにいる以上ない話
ではない。

仮に、イランやサウジが軍事的に衝突した場合や、米国のイランに
対する制裁が貫徹され、本当にイランが原油輸出できなくなるよう
な場合には、ホルムズ海峡封鎖の可能性が高まるため、原油価格が
100ドルを超えても何ら不思議はない。

金融面・政策面では、以下の要因が上昇リスクとなる。

1.米金融規制緩和

2.米景気拡大ペースの鈍化に伴う利上げペースの減速

3.2.に限らず長期金利が日欧の低金利政策の継続で低下する場合

1.は中間選挙で民主党が下院を押さえたため、その可能性はほぼ
ゼロになった。

2.は足元の統計減速で、来年の利上げペースが鈍化する可能性が
出高まっている。FOMCメンバーもハト派的な論調が増えてきており、
2019年以降の利上げペースは当初予想よりも減速するのではないだ
ろうか。

下落リスクは需要面は何かしらの信用リスクが顕在化することが材
料となる。

1.中国の金融市場・住宅市場正常化推進加速

2.地政学的リスク(特に需要面では欧州の混乱)の顕在化

3.北朝鮮戦争の開戦や中東情勢悪化を受けたリスク回避の動きの
強まり

4.株価の調整

5.トランプ政権の保護主義政策推進

6.ベネズエラをはじめとする新興国のデフォルト

1.の中国の金融市場・住宅市場正常化は不採算の国家プロジェク
トを見直すなど緩やかに調整が起きているが、景気をクラッシュさ
せるほどのものにはなっていない。

2.は既に顕在化しつつあるが、欧州で与党が野党に敗れ、極右・
極左が台頭することや、Brexitがハードなものになる可能性は2019
年以降の重要なリスクの1つである。

中東についてはイランと米国の対立、イランとサウジの対立継続が
リスク要因だ。イスラエルでの大使館移転の動きの拡大が、中東諸
国を刺激し、イスラエルとアラブ諸国の対立が深まるリスクも無視
できない。

5.は同盟国に対しては事前の期待通り常識的な落としどころを探
る動きになりつつある。しかし大統領選挙まで「戦う大統領」の
ポーズを示しておかなければならないため、何かしらの果実を得る
まで関税問題は解決しない。

6.は米国の利上げ継続などで新興国からの資金流出が継続すると、
現実のものとなるかもしれない。中国はベネズエラに対して622億
ドル程度の融資(The Inter-American Dialogue調べ)をしている
と考えられ、これは1,300億ドル程度と言われるベネズエラの外貨
建て債務(+PDVSA債務)の5割近くに相当する。

仮にデフォルトしたり、政権が倒れた場合、ベネズエラの次期大統
領がこの契約は無効として、IMFや米国に泣きつく可能性はあり、
この場合の中国は債権放棄を余儀なくされる可能性がある。

この場合、中国国家開発銀行や中国輸出入銀行の負担となり、最終
的には中国政府の負担となる。崩壊の危機に直面しているベネズエ
ラであるが、これ以外の国もデフォルトする可能性はあるため、氷
山の一角ともいえる。今のところベネズエラ問題のみで中国が崩壊
するとみる向きは少ないが、そのリスクは無視できない。

供給面は、以下の要因が主な下落リスクシナリオだ。

1.北米の増産加速

2.OPECの出口戦略が意識される

3.イスラエルを中心とした中東情勢絵不安でサウジアラビアや
イランなどの足並みが揃わず、OPECの結束が崩壊する場合


1.は米国のパイプラインのキャパシティ問題もあり、増産ペース
は鈍化している。原油価格が採算ラインに乗ってから増産が始まる
までの時間差や新しいパイプラインの稼働時期を考えると、再び増
産ペースが加速するのはQ119になってからだろう。

2.は、12月のOPEC総会の結果を見てもわかるように、出口を模索
する状態にはないためこの可能性は低下した。

3.はイランに対する制裁の度合いによるが、今のところは崩壊ま
でには至らないとみられる。ただ、ムハンマド皇太子の強硬姿勢に
嫌気が指し、財政状況も厳しくなったカタールがOPEC脱退を決定す
るなど、結束にはほころびが出始めている。

石炭価格はじりじりと水準を切り下げながら、高値圏での推移を続
けている。中国の国内の生産が減少しているうえに北朝鮮の制裁が
続いていることが影響している。価格の減速は、価格に対する説明
力が高い、「中国の景況感の鈍化」が影響していると見る。

北朝鮮への制裁解除は当面ない見込みだが、年明けに米朝首脳会談
が開催される可能性があり、一気に解除に向かう可能性も無視でき
なくなってきた。

COP24は目標達成時期で新興国や先進国の間で合意が得られず、期
間設定は先送りされることになった。なお、弊社が注目していた石
炭に関する問題についても取り上げられたが、明確な答えは出てな
い。


---≪LME非鉄金属≫---

LME非鉄金属価格は上昇した。米中古住宅販売が市場予想を上回る
内容だったことで、建材需要増加観測が強まったため。

しかし、それよりはFOMCを控えて様子見気分が強い中、「前日売ら
れた商品が買い戻される流れ」を受けての上昇、と整理したほうが
適切かもしれない。

なお、長らくアルミ価格を押し上げてきた要因の1つであるRusalの
制裁解除であるが、大株主であるデリパスカ氏が保有株の比率を5
割以下に削減することで、解除となる見通しとなっている。この場
合、アルミ価格は1,800ドル台に下押しされるのではないか。


非鉄金属価格は年初にかけて上昇する局面はあるが、年半ばに向け
て世界景気の循環的な減速を受け、水準を切下げる動きになると考
える。結局景気循環系商品価格を決めるのは景気動向である。

とはいっても、12月のFOMCでは来年の利上げ見通しが2回に引き下
げられており、名目金利の低下を受けた実質金利の低下を通じて金
融面が価格を下支えすると予想する。

ただし、米中貿易戦争は今後も継続する見込みであること、欧州の
景況感悪化に伴う政情不安の高まり、英Brexitがハードなものにな
る可能性があること、といった現在顕在化しつつあるリスク要因が
景気に対する懸念を強めるため、より大きな下落になる可能性はあ
る。

なお、米中貿易戦争がどのように決着するか、現時点で誰も見通す
ことはできないが、恐らく米国は「中国が西側の仕組みに組み入れ
られることを承諾します」というまで継続すると予想する。

しかし、中国はアフリカなどの今後成長が見込める新興国を囲い込
み、毛沢東が中国を農村から掌握していった戦略と同様の戦略を推
し進め、数の力で米国の思惑を挫く戦略を採用するとみられ、いず
れも時間との戦いになる。

そして、それほど短期決戦にはならないと考えられるため、比較的
長い間景気にマイナスに作用することになるため、非鉄金属を始め
とする景気循環系商品価格の下押し要因となるだろう。

そしてこうした制裁の影響は顕在化しつつある。中国工業部門利益
は、年初来ベースで前年比+13.6%の5兆5,212億元(1-9月期+14.7%
の4兆9,713億元)、10月は+3.6%の5,480億元(前月+4.1%の5,455億
元)と大幅に伸びが減速している。構造的・循環的な景気減速に加
え、米国の制裁の影響が徐々に顕在化していることの証左だ。

なお、構造的に工業金属需要が増加し、価格が上昇するのはおそら
く次の需要のけん引役となるインドが人口ボーナス期入りする2020
年頃からになるとみているため、長期的には強気の見通しである。

短期的には投機筋の動向が重要になるが、12月14日付のLMEポジシ
ョンを見ると、ベンチマークの銅はロングの減少とショートの増加
で完全に弱気相場入りしている。亜鉛と鉛はロング・ショートとも
減少しておりリスク回避姿勢が強まっていることを映じているよう
だ。

アルミとニッケル、錫はロング・ショートとも増加しているが総じ
てショートの増加圧力が強く弱気である。

投機筋のLME+CME銅ネット買い越し金額は140.1億ドル(前週
157.8億ドル)と買い越し額が減少、買い越し枚数もトン数換算
ベースで4,217千トン(4,456千トン)と減少している。

中長期的な見通しは人口動態が重要になるが、中国の人口ボーナス
期は2030年頃まで続く事、2020年頃からインドが人口ボーナス期に
入ることから構造的な需要増加はまだ継続すると見ており、強気の
スタンスを崩していない。

一帯一路構想は「中国の周辺国の実効支配」を目的とするものであ
ることは明確であり、このまま世界中がすんなりこれを受け入れる
かは微妙だ。実際パキスタン、ネパール、ミャンマーの水力発電プ
ロジェクトが相次いでキャンセルになっている。マレーシアの鉄道
案件も先送りとなった。

また、2018年の軍事費も前年比+8.1%の1兆1,069億元と大幅に積み
増しされており、中国が軍事的に周辺国を支配しようとしているの
は明らかである。

恐らく、市場が期待していたほどのペースで一帯一路政策が進行す
ることはないだろう。そんな中、10月の米中首脳会議で安倍首相は
透明性を高めることなどを前提に、一帯一路構想への協力を約束し
た。

中国の資金繰りが悪化している可能性は高く、中国は日本の支援を
欲しがっている、とも考えられる。軍事衝突を回避しつつ、中国を
たたく戦略を採用している米国がこれを看過するかは疑問である。

この見通しの上昇リスクは需要面では、

1.中国の財政出動並びに住宅価格上昇容認

2.環境規制の強化で特殊需要が増加する(軽量化目的のアルミ、
EV向けのニッケル・銅(通常25キロ/台の銅が使われるが、EVは80
キロ/台が使われる)、蓄電池としての鉛、コバルトなど)

3.トランプ政権のインフラ投資計画実施

などが考えられる。

1.は米国の経済制裁を受けて、構造的な景気の軟着陸を目指すに
は内需刺激しかなくなっており、預金準備率の引き下げや、住宅セ
クターの再度の過熱を容認する可能性は排除できなくなっている。

2.の環境規制強化の流れの中でのEVブームは、若干鎮静化してい
る。EV普及のためには補助金負担は必須であり、景気が減速する中
ではなかなか積極的にEV政策を推し進められないことが背景にある。
よって、市場が期待しているほどのペースで普及するとは見ていな
い。

3.はそもそも大きな政府を目指している民主党の理解が得られや
すいため、メキシコとの壁は作らないと思うが一部実施される可能
性は高まった。

供給面は個別性が強いが、以下が上昇リスク要因として挙げられる。

1.大規模鉱山の減少に伴う安価な資源確保環境の悪化(コストを
掛ければ採掘できる。リサイクルの充実は必須)

2.中国の環境規制強化に伴う減産の継続

3.石炭価格上昇による生産コスト(電力コスト)の高止まり

金融面・政策面では、以下が主な上昇リスク要因だ。

1.米金融規制緩和

2.米景気拡大ペースの鈍化に伴う利上げペースの減速

3.2.に限らず長期金利が日欧の低金利政策の継続で低下する場合

1.は中間選挙で民主党が下院を押さえたため、その可能性はほぼ
ゼロになった。

2.は足元の統計減速で、来年の利上げペースが鈍化する可能性が
出てきた。FRBパウエル議長を含むFOMCメンバーもハト派に傾きつ
つある。

下落リスクは多く、以下があげられるが主に信用リスクの拡大が要
因の軸となる。

1.中国の金融市場・住宅市場正常化推進加速

2.地政学的リスク(特に需要面では欧州の混乱)の顕在化

3.株価の調整

4.米輸入規制強化並びにそれに対する報復

5.ベネズエラをはじめとする新興国のデフォルト


1.の中国の金融市場・住宅市場正常化は不採算の国家プロジェク
トを見直すなど緩やかに調整が起きているが、景気をクラッシュさ
せるほどのものにはなっていない。

2.は既に顕在化しつつあるが、欧州で与党が野党に敗れ、極右・
極左が台頭することや、Brexitがハードなものになる可能性は2019
年以降の重要なリスクの1つである。

中東についてはイランと米国の対立、イランとサウジの対立継続が
リスク要因だ。イスラエルでの大使館移転の動きの拡大が、中東諸
国を刺激し、イスラエルとアラブ諸国の対立が深まるリスクも無視
できない。

4.は同盟国に対しては事前の期待通り常識的な落としどころを探
る動きになりつつある。しかし大統領選挙まで「戦う大統領」の
ポーズを示しておかなければならないため、何かしらの果実を得る
まで関税問題は解決しないだろう。

5.は米国の利上げ継続などで新興国からの資金流出が継続すると、
現実のものとなるかもしれない。中国はベネズエラに対して622億
ドル程度の融資(The Inter-American Dialogue調べ)をしている
と考えられ、これは1,300億ドル程度と言われるベネズエラの外貨
建て債務(+PDVSA債務)の5割近くに相当する。

仮にデフォルトしたり、政権が倒れた場合、ベネズエラの次期大統
領がこの契約は無効として、IMFや米国に泣きつく可能性はあり、
この場合の中国は債権放棄を余儀なくされる可能性がある。

この場合、中国国家開発銀行や中国輸出入銀行の負担となり、最終
的には中国政府の負担となる。崩壊の危機に直面しているベネズエ
ラであるが、これ以外の国もデフォルトする可能性はあるため、氷
山の一角ともいえる。今のところベネズエラ問題のみで中国が崩壊
するとみる向きは少ないが、そのリスクは無視できない。


---≪鉄鋼原料≫---

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップ価格は小幅高、原料炭スワップ先
物は横這い、鉄鋼製品価格は小幅上昇した。目立った新規手がかり
材料に乏しく、方向感に欠ける展開が続いている。

鉄鉱石価格は現状水準で推移すると考える。季節的に中国の生産が
減少、輸入が増加する時期に当たること、鉄鉱石在庫日数の低下、
米国の制裁を受けて中国政府は国内鉄鋼製品需要を刺激する政策を
採らざるを得なくなる可能性が高いこと、冬場の鉄鋼生産抑制継続
による鉄鋼製品価格の高止まりが、投機的な観点での鉄鉱石買いを
誘うと考えられること、冬場の鉄鋼製品減産が需給面で鉄鋼製品価
格を下支えすると予想されることが背景(詳しくは2018年10月31日
付のMRA's Eyeをご参照下さい)。

11月の中国鉄鋼PMIは45.2(前月52.1)と大幅に減速した。特に新
規受注が35.4(52.3)と急落、完成品在庫も58.8(42.3)、
原材料在庫も54.8(54.2)と大きく積み上がった。

より注目すべきは輸出向け新規受注の落ち込みが47.3→43.2にとど
まっている一方で、全体では52.3→35.4となっていることだ。この
ことは中国国内の鉄鋼需要が減少していることを意味し、鉄鋼製品
価格の下落要因となる。当然、鉄鉱石価格にもマイナスに作用する
だろう。

こうした国内の減速による、景況感の悪化、とくに中小企業の景況
感悪化を回避するために中国政府は何らかの経済対策(インフラ投
資)を実施するとみられる。

ただし、同時に地方政府の財政状況も厳しく、バブルを誘発するほ
どの公共投資も実施できないため、鉄鋼製品、鉄鉱石価格の下支え
要因にはなるが、価格を大きく押し上げるほどの効果はないと見る。

なお、米中貿易戦争がどのように決着するか、現時点で誰も見通す
ことはできないが、恐らく米国は「中国が西側の仕組みに組み入れ
られることを承諾します」というまで継続すると予想する。

しかし、中国はアフリカなどの今後成長が見込める新興国を囲い込
み、毛沢東が中国を農村から掌握していった戦略と同様の戦略を推
し進め、数の力で米国の思惑を挫く戦略を採用するとみられ、いず
れも時間との戦いになる。

そして、それほど短期決戦にはならないと考えられるため、比較的
長い間景気にマイナスに作用することになるため、非鉄金属を始め
とする景気循環系商品価格の下押し要因となるだろう。

そしてこうした制裁の影響は顕在化しつつある。中国工業部門利益
は、年初来ベースで前年比+13.6%の5兆5,212億元(1-9月期+14.7%
の4兆9,713億元)、10月は+3.6%の5,480億元(前月+4.1%の5,455億
元)と大幅に伸びが減速している。構造的・循環的な景気減速に加
え、米国の制裁の影響が徐々に顕在化していることの証左であろう。

結局、工業金属の最大消費国である中国への制裁は緩和はすれども
継続する見込みであるため、工業金属需要にとってマイナスに作用
することは避けえない。

中国最大の鉄鋼生産地区である河北省の高炉稼働率は、現在74.6%
と過去5年平均の83.1%を下回っている。しかし、強制的に生産削減
となった昨年の58.1%よりかなり高い水準を維持している。

今後、昨年と同様、生産抑制される見込みであるため、鉄鋼製品価
格は冬場、高い水準を維持することになるのではないか。

鉄鋼製品在庫が前週比▲12.9万トンの794.3万トン(過去5年平均
947.7万トン)であり鉄鋼製品価格は例年よりも高い水準を維持し
そうだ。

鉄鋼製品が高止まりするため、鉄鉱石に関しても、冬場に向けた国
内生産の減速時期に突入していることから、季節的に鉄鉱石価格は
高止まりするだろう。

直近の統計では、鉄鉱石在庫が前週比+90万トンの1億3,710万トン、
(過去5年平均1億706万トン)、在庫日数は前週比+0.2日の
30.6日(過去5年平均30.6日)と、例年の水準まで低下している。
粗鋼生産が駆け込み前の増産で増加したことが影響したためだが、
在庫水準の低下は価格を下支えするだろう。

長期的な見通しは人口動態が重要になるが、中国の人口ボーナス期
は2030年頃まで続く事、2021年からインドが人口ボーナス期に入る
ことから構造的な需要増加はまだ継続すると見ており、強気である。

なお、アジア開発銀行は2016年〜2030年のアジアのインフラ投資規
模は26兆ドル(3,000兆円、年間1兆7,000億円)に達すると試算し
ている。

一帯一路構想は「中国の周辺国の実効支配」を目的とするものであ
ることは明確であり、このまま世界中がすんなりこれを受け入れる
かは微妙だ。実際パキスタン、ネパール、ミャンマーの水力発電プ
ロジェクトが相次いでキャンセルになっている。マレーシアの鉄道
案件も先送りとなった。

また、2018年の軍事費も前年比+8.1%の1兆1,069億元と大幅に積み
増しされており、中国が軍事的に周辺国を支配しようとしているの
は明らかである。

恐らく、市場が期待していたほどのペースで一帯一路政策が進行す
ることはないだろう。そんな中、10月の米中首脳会議で安倍首相は
透明性を高めることなどを前提に、一帯一路構想への協力を約束し
た。

中国の資金繰りが悪化している可能性は高く、中国は日本の支援を
欲しがっている、とも考えられる。軍事衝突を回避しつつ、中国を
たたく戦略を採用している米国がこれを看過するかは疑問である。

上昇リスクについては、以下のようなものが考えられる。

1.中国の財政出動並びに住宅価格上昇容認

2.一帯一路構想が市場予想を上回るペースで実施される場合

3.米国のインフラ投資計画が実際に実施される場合

1.は米国の経済制裁を受けて、構造的な景気の軟着陸を目指すに
は内需刺激しかなくなっており、固定資産投資も公的セクターが伸
びるなど、実際に行動に移し始めている。ただ、景気が過熱するほ
どの緩和策や景気刺激策は取られない、というのが現在のメインシ
ナリオだ。

2.はそのプロジェクトの質(たち)の悪さから導入を見送る国が
増えており、中国自体の資金繰りの問題もあって以前ほど高いリス
クではない。


3.は民主党が選挙で下院の過半数を占めたことから実施の可能性
が後退した。しかしそもそも民主党は大きい政府を標榜しているた
め、部分的に実施される可能性はある。

下落リスクは信用リスク系のものが多いが以下が主なところだ。

1.中国の住宅バブル崩壊

2.中国のインフラ投資が財政悪化で規模が期待ほどにはならない
場合

3.何らかの理由で北朝鮮に対する制裁が解除され、原料炭価格が
下落する場合

4.地政学的リスクの顕在化

5.米輸入規制強化並びにそれに対する報復

6.ベネズエラをはじめとする新興国のデフォルト

4.は既に顕在化しつつあるが、欧州で与党が野党に敗れ、極右・
極左が台頭することや、Brexitがハードなものになる可能性は2019
年以降の重要なリスクの1つである。

中東についてはイランと米国の対立、イランとサウジの対立継続が
リスク要因だ。イスラエルでの大使館移転の動きの拡大が、中東諸
国を刺激し、イスラエルとアラブ諸国の対立が深まるリスクも無視
できない。

5.は常識的な落としどころを探る動きになる、とみていたが結局、
米中の貿易戦争は開戦となった(その他の地域に対する関税引き上
げはこれとは別に存在)。

関税引き上げは消費税引き上げのような緊縮財政と同様の経済効果
をもたらすため、景気には明らかにマイナスだ。今のところ、中間
選挙を睨んだ対策であるため、目に見える効果が上がらない限りは
解除はしないだろう。

結果、中国国内の鉄鋼製品価格を押し下げ鉄鉱石価格の押し下げ要
因となるだろう。

6.は比較的現実のものとなるかもしれない。中国はベネズエラに
対して622億ドル程度の融資(The Inter-American Dialogue調べ)
をしていると考えられ、これは1,300億ドル程度と言われるベネズ
エラの外貨建て債務(+PDVSA債務)の5割近くに相当する。

仮にデフォルトしたり、政権が倒れた場合、ベネズエラの次期大統
領がこの契約は無効として、IMFや米国に泣きつく可能性はあり、
この場合の中国は債権放棄を余儀なくされる可能性がある。

この場合、中国国家開発銀行や中国輸出入銀行の負担となり、最終
的には中国政府の負担となる。崩壊の危機に直面しているベネズエ
ラであるが、これ以外の国もデフォルトする可能性はあるため、氷
山の一角ともいえる。今のところベネズエラ問題のみで中国が崩壊
するとみる向きは少ないが、そのリスクは無視できない。


---≪貴金属≫---

金価格は下落した。実質金利が低下したものの、米利上げ実施や株
価の下落を受けてドルがリスク回避的に物色されたこと、イタリア
の財政問題への懸念が後退したことが安全資産需要を後退させたた
め。

パラジウムは引き続き、足元の需給タイト化を映じて堅調な推移と
なっている。

金価格は再び上昇余地を探る動きになると考える。依然、Brexitが
ハードなものになる懸念が強まっていること、米国の中国制裁は本
気である可能性が高く、長期化懸念が強まっていることが価格を押
し上げると考える。

また、こうした一連の政策や循環的な景気の減速を受けて米国の利
上げが想定よりも早く打ち止めになるのではないか、との見方も金
融面で価格を下支えしよう(ただし足元は原油価格の下落がこれを
相殺)。


英国は予定されていた議会の採決を延期した。延期してEU案に反対
している勢力の説得に回ると考えられるが、今の状況だととてもEU
合意案が通るとは思えない。

EUは再交渉には応じないとしているが、これはEU司法が判断したよ
うに「EUの承認を得ない、英国のEU離脱取りやめ」が最も被害が少
ない選択なのではないだろうか。

しかし、メイ首相がそれを否定している上、国民投票の実施も否定
していることから、どちらに転ぶかわからないが、メイ首相の不信
任案を可決し、解散、総選挙、国民投票再度実施、という流れにな
るのではないか。

一番現実的な解は、「とりあえずBrexitの期限を延期する」である
が、足元の報道ではこちらに向けて一時的に英国に対する規制を緩
和するなどの案が検討されているようだ。

なお、金価格は、地政学がフルに影響すれば1,400ドル程度までの
上昇はあると考えていたが、現在の実質金利水準や、過去の実質金
利からの乖離(いわゆるリスクプレミアム)を考えると、あと50ド
ル程度しかリスクプレミアム分の上昇余地はなさそうだ(詳しくは
2018年10月18日付のMRA's Eyeをご参照下さい)。

なお、地政学的リスクの影響がないとすれば、実質金利で説明可能
な水準である1,050ドル程度までの下落はあると考える。

銀は、Silver Instituteなどの分析では供給の減少と電気製品向け
の需要増加で供給不足になっていると指摘されているが、それより
は金価格動向や貿易戦争の影響が強く意識され、対金で軟調な推移
となっている。

今後についても金価格が軟調に推移することから水準を切り下げる
動きになると考える。現在の金銀レシオは80に大きなチャートポイ
ントが重なり、底堅い推移となりつつ過去最高水準を維持している。

足元、COMEXの金銀在庫レシオの金銀レシオに対する説明力が高い
が、足元でも金銀在庫レシオは高い水準を維持している。記録的な
水準まで積み上がった銀の取引所在庫の影響で、しばらくはこの80
越えの水準を維持するだろう(詳しくは2018年10月19日付のMRA's
Eyeをご参照下さい)。

金銀レシオが80である前提であれば、地政学的リスクがフルに影響
して1,300ドルになった場合、リスクプレミアムがはげ落ちて1,150
ドルまで下落した場合に対応する銀価格は、16.25ドル、14.4ドル
となる。

金銀レシオが鉱工業生産などから説明可能な、長期の平均的な水準
である74程度であれば、17.6ドル、15.5ドルとなる。

短期的な価格動向を占う上で参考になる投機筋の売買動向は、
12月11日時点で金のロングが▲3,419枚の169,600枚、ショートが
▲14,917枚の109,101枚、銀のロングが+1,822枚の71,136枚、
ショートが▲10,069枚の59,880枚となっている。

先週から様子が変わり、金はロングが減少、ショートがそれ以上に
減少、銀はロングが増加、ショートが減少している。

PGM価格は金銀価格が上昇するため同様に上昇するとみるが、米中
貿易戦争がやはりこれから激しくなるとの見方から景気循環系商品
が売られる流れを受けて、対金銀での割安感が強まる展開になると
予想する。

ただし、パラジウムは既にリースレートが30%を超えており、実際
の需給が非常にタイトであることを示している。景気の減速が明確
にならない限り、しばらくは供給面が強く意識され、価格は高止ま
りするだろう。

米国の11月の自動車販売は1,740万台(市場予想1,720万台、前月
1,750万台)と再び減速した。駆け込み需要の剥落や長期金利の上
昇(足元は下落)が影響したとみられる。


11月の米消費者信頼感は135.7と引き続き高い水準を維持、6ヵ月以
内に自動車を購入すると答えた人の比率も13.8と前月の14.0から小
幅に低下している。自動車関税引き上げ前の駆け込み需要の剥落の
影響だろう。

FRBの利上げも継続する見込みであり、自動車メーカーのディー
ラー向けのインセンティブ負担も重くなることが予想され、自動車
関税引き上げが宣言通り実施されるのであれば、自動車販売は減速
する可能性が高く、PGM価格を下押しすると予想される。

中国の10月の自動車販売(工場出荷台数)は前年比▲11.7%の238万
台(前月▲11.55%の239万4,100台、前々月▲3.75%の210万3,400台、
前々々月▲4.02%の188万9,100台)と4ヵ月連続でマイナス成長とな
り、同国の耐久財需要が減少していることが伺える。

弊社は需給面の見通しに関しWPICの見通しを参考にしているが、直
近の見通しでは2018年のプラチナの需給は50万5,000オンスの供給
過剰と、前回発表の29万5,000オンスから供給過剰幅が引き上げら
れた。2019年についても45万5,000オンスの供給過剰が見込まれて
いる。

2019年の自動車向けの触媒需要は前年比▲40万オンスとなる一方、
供給は、南アフリカ(+5.5万オンス)、北米(+4.5万オンス)の増
産がロシアの減産(▲2万オンス)を相殺、供給が+13万オンスとな
ることで需給の緩和感が強まる見込み。

この結果、地上在庫は312万オンス(2018年 266万5,000オン
ス))に増加する見込みで、在庫日数も146.8日(128.4日)と増加
見込みであり、在庫の顕著な増加が価格上昇を抑制することになろ
う。

なお、南アフリカのPGM生産指数は9月時点で108.00(季節調整前)
と過去5年平均を回復した。今の需要動向をみるとよりプラチナ需
給が緩和し、パラジウムの供給は不十分で両者のスプレッドは、需
給面からまた拡大する可能性が出ている。

12月11日現在、CFTCのプラチナポジションはロングが+2,249枚の
48,259枚、ショートが+5,884枚の37,268枚、パラジウムはロングが
▲941枚の17,777枚、ショートが▲215枚の3,532枚となっている。


---≪農産品≫---

シカゴ穀物市場は下落した。目立った手がかり材料に乏しい中、FO
MC後にリスク回避的にドル高が進行したことが材料となった

穀物価格は引き続き、現状の水準でもみ合うものと見ている。米中
の対立解消には相当の時間がかかるだろうとの見方が強まっている
こと、Brexit懸念を受けてドル高圧力が高まっていることが背景。

中国が米国から再び大豆を購入したと報じられていたが、米中首脳
会談の結果や北半球と南半球の季節の違いに加え、シカゴ大豆が割
安になったことが背景。結局、これ以上中国は米国以外の国からの
調達シェアを引き上げる余地はないため、シカゴ大豆は下支えされ
るだろう。


12月の米需給報告では、トウモロコシの在庫見通しが17億8,100万
ブッシェル(市場予想17億4,400万ブッシェル、前月17億3,600万ブ
ッシェル)、大豆が9億5,500万ブッシェル(9億4,400万ブッシェル、
9億5,500万ブッシェル)、小麦が9億7,400万ブッシェル(9億6,500
万ブッシェル、9億4,900万ブッシェル)と、総じて在庫は市場予想
を上回っている。

12月11日付のCFTC投機筋ポジションは、トウモロコシのロングが
+11,788枚の404,390枚、ショートが▲36,193枚の232,680枚、大豆
のロングが▲10.077枚の144,809枚、ショートが▲7,057枚の
138,878枚、小麦のロングが+1,243枚の137,470枚、ショートが
▲2,509枚の135,810枚となっている。

ポストハーベストプレッシャーの買戻しでショートが減少する中で、
価格が下支えされている。

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◆本日のMRA's Eye
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「市場価格と価格交渉」

先日、日経新聞に以下の様な記事が掲載されていた。有料記事であ
るため購読していない方のために簡単に概要を説明すると、樹脂
メーカーが値上げを行おうとしたものの、足元の原油価格急落を受
けて、ナフサの価格が下落し、値上げを消費者側が飲まなかった、
という内容だ。
https://s.nikkei.com/2EB4Iks

こういった動きは樹脂に限らず、多くの原料や製品で起きている。
価格リスクを議論するときに、「かかったコストは最終消費者に転
嫁する」のが最も分かりやすく、効果が大きい手法の1つであるが、
実際に企業決算を見ると、必ずしも価格転嫁が十分にできているわ
けではない。それはこの日経新聞の記事が解説している通りである。

つまり調達した原材料価格の原価が高くても、価格転嫁のタイミン
グがずれることによって、100%の価格転嫁ができなくなる(場合に
よると値上がり分を回収することなく、販売価格が値下がりするこ
ともあり得る)。

また、取り扱う商品によって異なるが、商品価格は市場で決定され
る「市場価格」に販売者側の利益(スプレッド)を乗せて決定され
るが、このニュースは「市場価格が上昇したので、その値上げを価
格に転嫁するように要求したところ、足元の価格が下落しているの
で拒否された」ということなのだが、市場価格は基本、生産者や消
費者の努力でどうにかなるものではない。それを交渉で決めようと
してもなかなか決まるものではない。

本件に関して業界の方からは、「輸入平均価格と参照月がずれてい
るので、足元の原油価格の上下を反映できないから、交渉するしか
ない」という意見を頂いた。

つまり、上記に加えて参照している指標が特殊な指標(該当する月
に輸入している原油やナフサの通関統計の平均値)であり、それを
参照する月も異なるので、交渉が必須、ということである。それは
現時点においてはその通りだろう。

このリスクを回避しようとした場合、これらの指標を数式化し、
(フォーミュラ化し)を売り手と買い手の間で合意する必要がある。
少なくともこうすることで、市場価格の変動(自社の努力でどうに
もならない)に伴う価格交渉のリスクを低減させることが可能にな
るだろう。長年の業界慣行を変更することは容易ではないが、取り
組む意義はあると考えられる。

そしてこの場合、価格変動リスクは最終消費者が取ることになるが、
通関統計値などの「市場でリスクマネジメントができない指標」を
用いて数式化しても、最終消費者は何らかのリスクを取らなければ
この価格リスクを先物やデリバティブでヘッジすることができなく
なる。

そのためフォーミュラ化を行うならば、できる限り市場でリスクヘ
ッジが可能な指標を用いるべきである。自身で主体的に先物取引や
デリバティブを使ってリスクマネジメントができる、ということは
大きなメリットだ。こうすることで現物調達とは関係なく、値決め
が可能になるためだ。

もちろん、通関統計をベースとした価格体系であっても、一定のリ
スク(ベーシスリスク)を取れば、一定のヘッジ効果は得られる。

このように、業界慣行的に複雑な値決めの体系が維持されている、
あるいはシンプルにしているようでもリスクマネジメントが不可能
な価格で販売されている(電気はその典型)ことは多い。市場リス
クにさらされない体制を確保するには、まずこうしたフォーミュラ
の調整が必要ではないだろうか。

※都合により1日早くMRA's Eyeを掲載します(明日は休載です)。

※グラフはこちらのリンクからどうぞ。
http://www.marketrisk.co.jp/topics/

※MRA's Eyeは週3回の掲載となります。


※「MRA's Eye」で取り上げて欲しい題材がありましたら、
 ask@mra-research.co.jp までご連絡下さい。
 株や為替、マクロ経済、リスク回避手法等、ジャンルに制限は設
けませんが、全てのご質問に応えられない可能性がありますので、
あらかじめご容赦く

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